林間学校の管理者

2話 1日目後半

林間学校には炊事用のかまどが多くある。それの点検をするのも、もちろん僕の仕事だ。まず燃え残った薪などが残っていないか確認し、次にかまどの底を手で触れて温度を確認する。このかまどの確認は、怠れば山火事にも至りうる。だから慎重に、一つ一つ確認する。

もちろんこの作業はとても大切なのだが、それとは別に、僕は割とこの作業を気に入っている。かまどの底に手を触れた時の感触が心地いいからだ。

天候や、いつ炊事が行われたかによってかまどの温度は変わってくる。しかし石はどのような温度であっても、手を触れた程度でその温度を変えない。この不動の様子が、なんともいえない心地よさを与えてくれる。

さらにいいことに、炊事の時間とずれているため、中学生の喧騒は遠く、ひとときの安らぎの時間となる。

全てのかまどに手を触れおわり、ふうと一息ついて立ち上がって次の仕事の場所へ行く。

その後は各所のトイレの掃除、薪や食料の搬入、シャワー施設の点検などを行って、日誌を書いて僕の所有者に提出し、1日を終える。今日も仕事を終え、日誌に記入を終えたので所有者の下へ赴いた。

「おー出雲、お疲れ様。今日はどうだったい?」

短髪で少し鋭い目つきの女性、僕の所有者である熊野美智子が作り笑いを浮かべて、そう尋ねてくる。

「どうということはありませんよ。いつも通りです。」

「そうかいそうかい」

相変わらずへらへらと作り笑いを浮かべている。

「あ、今日の分の日誌です。」

「おう、いつもありがとね、どれどれ」

彼女は僕が手渡した日誌をめくり、そこに視線を落としてふむふむと頷く。

「今日、なにか変わったことがあったのかい?」

日誌に目を向けたまま、彼女はさっきとは違う少し怪訝そうな声で言った。

「へ?あ、ええ。」

その言葉を聞いて僕も今日のあのときの違和感を思い出した。

「中学生の中に、アンドロイドの少女が。」

ガタッと椅子の動く音がした。彼女は驚いた様子で日誌を閉じ、椅子から立ち上がり僕の肩を掴んで言った。

「その子、名前は?」

「えっと、高千穂?高千穂、、やよい、だったと思います。」

彼女は驚いたという表情で僕から離れ、腕を組み地面の方を見つめぶつぶつと独り言を始める

「やよいさん…彼女と出会ったのか…いや、これはもしかしたら…しかし…」

なにかとんでもないことをしたのだろうか、そう思って少し不安になってくる。その様子に気づいたのか、熊野さんは「あぁ、ごめん」と言ってこちらに向き直った。そんな彼女に対して僕は不安な気持ちを払拭したい思いで言葉を紡ぐ。

「あの、なにか問題でも?」

「ああ、そんなことはない。大丈夫。ところで、その他はなにか気になることはない?」

話題を切り替えようとしているのか、そう聞いてきた彼女に、僕はもう一つの質問もしてみようと思った。

「あの、アレが生徒たちに見つかったら、まずいんじゃないですか?」

「アレ?」

彼女は首をかしげる。アレと言ったらアレしかないじゃないか!少々の苛立ちを感じる。

「ほら、桜の木の下に隠した、アレですよ。」

「隠したいもの…」

彼女はしばらく考え込んで、言った。

「アレね、それがどうしたの?」

「どうしたのって、アレが見つかったらまずいことはあなたが一番理解しているでしょう!?」

「え?私が?」

「だってあなたが私に命令したんですから!」

つい声を荒げてしまうと、彼女はやや気圧された様子で言った。

「あー、はい、はい、そうね、なんとか隠せるといいわね。そして後で回収しに行きましょう。」

「回収するんですか?せっかく埋めたのに?」

「だって、人目につく可能性のある場所に、ずっと置いておけないでしょ?私とあなたの秘密。」

確かにそうだ。僕はそれに納得して、「わかりました」と言った。それに対して、うん、それでよいという表情で頷いた彼女は、その後はっと気付いたようにこう付け加えた。

「回収までの間、それの様子も日誌に書いておいて。大丈夫、そのページは片がついたら燃やしておくから。」

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