まどマギの感想(ネタバレあり)
このたび、大変遅ればせながらまどマギのテレビアニメ版を完走しました。せっかくなので、その感想を文に残していこうと思います。
経緯とか
何で今更まどマギなんて観たんだって話ですけど、前々から観たいとは思ってたんですよね。話題の作品ですから。
せっかくなので放送当時のオタクの気持ちを味わうために、週に1話ずつ観ることにしました。友達を一人道連れにすることにも成功し、2023年1月28日から毎週土曜日に視聴しました。
とても味わい深い経験でしたね。毎回感想を言いながら、1週間待ってアニメを見る経験は、意外としたことがないので、それ自体は楽しかったです。
ですがアニメの内容自体は楽しいと言えるようなものではなく……
そんな!あんまりだよ!こんなのってないよ!
1話の冒頭で出てくるまどかの台詞です。これはほむらとワルプルギスの夜の戦いに対して放った言葉ですが、あまりにこの作品全編の様子を的確に捉えています。
こんなのってないよ!とこの作品でなんど思わされたことか。数えきれません。それほど、こんなのってないよ!としか言えない展開が続きます。
特に6話から11話は、毎回どんどんと最悪になっていって、次の一週間が怖くてたまりませんでした。
具体的には以下の通り
- 魔法少女の本体はソウルジェムの方だと明らかに
- さやかが魔法少女になるときにした願いで助けた意中の男子を親友に取られる
- 絶望でソウルジェムが濁り、魔女に
- きゅーべぇの目的は魔法少女を魔女にすることでエネルギーを取り出すこと
- さやかと対立していたが打ち解けつつあった杏子が魔女化したさやかと相打ちに
- ほむらが何回も時を戻してまどかを助けようとしていたことが明らかに
- しかし時を戻すたびに因果が結ばれてまどかが最悪の魔女になる方向に進んでいた
- 祈りをかなえた分だけ呪いとなって自身に降りかかることが明らかに
あんまりだよ!
こんなあんまりな設定を、とくとくと整然と出してくる。恐ろしい作品です。
しかもこれだけの理不尽な設定をちゃんとそれなりに納得できる形で出してくる。それがまた恐ろしいところです。
君の祈りはエントロピーを凌駕した!
10話にて暁美ほむらが魔法少女になったときのきゅーべぇのセリフ。このほかにもエントロピーという言葉はたくさん出てきます。
そもそもきゅーべぇが魔法少女を生み出すことになった原因がこのエントロピー。エントロピーとはものすごくざっくり言うと、仕事として取り出せない熱のことで、このエントロピーは減ることなく増大する一方なので、最終的には使えるエネルギーがなくなるということですね。
これを解決する方法が、魔法少女という設定です。具体的に言うと魔法少女が絶望し魔女になるときにエントロピーを超えるエネルギーを得られるとか。でも魔女を魔法少女に戻せないならエントロピーは凌駕してなくない?
野暮な話はおいていて、これが起点になることで、世界観全体に説得力が出るんです。これがすごい。
まずエントロピーというのは、増える一方で減ることがないと言いました。これはすなわち時間が巻き戻らないということを意味しているわけです。
でもここで魔法少女は潜在的にエントロピーを超えられる力を持っているとされます。つまりほむらが時間を巻き戻せる正当性が、ここに帰着されるわけですね。
エントロピーと並び立って、むしろそれより重要視されることもある科学の用語があります。それが因果律。
原因Aがあって、その影響から結果Bが起こるということですね。これも実は、時間が巻き戻らないことに深く関わっています。
原因Aは必ず結果Bよりも前に起こります。この関係は決して逆転しません。例えば、ボールを頭上にほおりなげると、ボールは頭に直撃します。しかし頭にボールが直撃したからボールが投げるわけではありません。
このようにエントロピーと同じく時間が巻き戻らないことに関連する因果律、それがエントロピーと同様にまどマギにおける重要な言葉になっています。
まどマギの世界では、個人に絡まっている因果の糸が多いほど強力な魔法少女、魔女になれるとされています。多くの民を持つ国の女王は、多くの国民の運命の原因となるから強力な魔法少女になれる、というように。
まどはか、ほむらが何回も時間を巻き戻して救おうとするたびに、他の世界の因果の糸を絡め取ってしまって、強大な魔法少女になりました。
この因果の糸が絡まっているほど強大になれる、という設定も、魔法少女がエントロピーを覆せ、時間を巻き戻しうる力を持つことと並べれば、とても自然に感じられます。
エントロピーも因果も、時間が巻き戻せないことに関わる原理なので、つながっていることはかなり自然なのです。
こういった設定全体での整合性というのが、作品全体でものすごく高度に組み上がっていて(たとえばこのエントロピーが魔法少女を生み出す動機そのものになっているのも整合性が高い)、観ていてつい感心してしまいます。
そんな感心してしまうほど隙のない展開で、こんなのってないよ!な状況を作っていて、恐ろしかったです。